目次
- 会社と話し合うことがあるかどうかで決まる
- 争っていることが何もない場合
- 有給・退職日・未払いがある場合
- 損害賠償・訴訟の話が出ている場合
- なぜ運営主体で範囲が変わるのか
- 労働組合が交渉できるとされる理由
- 民間企業の範囲が「伝えること」までとされる理由
- 弁護士だけができること
- 揉めていないなら、伝えてもらうだけで手続きは進む
- 自分の状況で選び分ける
- 実際にどのサービスがどれにあたるか
- 申し込む前に確認する5項目
- 1. 料金に何が含まれるか
- 2. 支払いのタイミング
- 3. 対応できない範囲
- 4. 連絡が取れる時間
- 5. 会社から自分に連絡が来たときの扱い
- 自分で伝える方法もある
- この記事が当てはまらない人
- 公務員の方
- 契約期間が決まっている方
- 派遣社員の方
- 判断がつかない部分は、専門の窓口で確かめる
退職代行を選ぶときに最初に決めるのは、料金でも知名度でもありません。会社と話し合わなければいけないことがあるかどうかです。
ここが決まると、頼める相手は自動的に絞られます。運営しているのが弁護士なのか、労働組合なのか、民間企業なのかで、会社に対してできるとされている範囲が変わるためです。
この記事では、その範囲の違いと、自分の状況ならどれになるのかを整理します。
| 依頼先 | 退職の意思を会社に伝える | 有給・退職日・未払い賃金の話し合い | 損害賠償の請求や訴訟への対応 |
|---|---|---|---|
| 弁護士 | 対応できる | 対応できる | 対応できる |
| 労働組合 | 対応できる | 団体交渉として対応できる | 対応範囲外 |
| 民間企業 | 対応できる | 対応範囲外 | 対応範囲外 |
労働組合の代表者や委任を受けた者は、労働組合法第6条により使用者と交渉する権限を有するとされています。いっぽう弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を業として取り扱うことは弁護士法第72条で禁じられており、民間企業が会社と交渉した場合はこの規定に触れる可能性が指摘されています。自分の事情がどれにあたるかの判断は弁護士の領分です。条文:労働組合法/弁護士法(e-Gov法令検索・2026年8月確認)
会社と話し合うことがあるかどうかで決まる
表の3列のうち、あなたに関係するのはいちばん右まで必要か、真ん中で足りるか、左だけで足りるかの1点です。
この分岐を図にすると、次のようになります。
状況から依頼先を絞る
争っていることが何もない場合
左の列だけで足りる状況が、実はいちばん多くあります。辞めたいと伝えるのが怖いだけで、有給も残っていないし、会社と争うつもりもない場合です。
このとき、弁護士に頼んでも民間企業に頼んでも、会社に伝わる内容は変わりません。差が出るのは料金だけになります。
必要のない範囲に料金を払わないことが、この場合の最適解です。
有給・退職日・未払いがある場合
真ん中の列が必要になるのは、次のような場合です。
- 有給が残っていて、消化してから辞めたい
- 会社が指定した退職日を動かしたい
- 未払いの残業代や、精算されていない経費がある
これらは「伝える」では終わりません。相手のある話し合いになるため、話し合える立場にあるかどうかで結果が変わります。
有給の残日数は給与明細に記載されていることが多く、分からなければ勤怠システムで確認できます。残日数を確認してから依頼先を選んでください。残っていなければ、この列に進む必要がありません。
損害賠償・訴訟の話が出ている場合
いちばん右の列が必要なのは、損害賠償を請求すると言われている、懲戒解雇にすると言われている、といった場合です。ここまで来ると弁護士以外に選択肢がありません。
言われた内容と日時を記録しておいてください。相談するときに話が早く進みます。
なぜ運営主体で範囲が変わるのか
範囲の違いは、サービスの良し悪しではなく、法律上の立場の違いから来ています。
労働組合が交渉できるとされる理由
労働組合法第6条は、労働組合の代表者や委任を受けた者について、次のように定めています。
労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
——労働組合法 第6条(e-Gov 法令検索)
労働組合が運営する退職代行は、この交渉権限を根拠にしています。
条文が「労働組合又は組合員のために」と書いている点が実務に効きます。そのため依頼するときに、その組合への加入手続きを求められるのが一般的です。
民間企業の範囲が「伝えること」までとされる理由
弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を業として取り扱うことを禁じています。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
——弁護士法 第72条(e-Gov 法令検索)
民間企業が会社と条件の交渉まで行った場合には、この規定に触れる可能性が指摘されています。だからこそ民間のサービスは、退職の意思を伝えるところまでを対応範囲としています。
これは民間のサービスが違法だという意味ではありません。範囲の中で使えば、その範囲の仕事はしてもらえます。争うことがない人にとっては、それで足ります。
弁護士だけができること
弁護士は依頼者の代理人として、交渉から請求、訴訟までを扱えるとされています。
労働組合との違いが出るのは、団体交渉の枠を超える場面です。未払い賃金の請求を訴訟まで進める、損害賠償の請求に応じる、といった手続きは弁護士の領分になります。
揉めていないなら、伝えてもらうだけで手続きは進む
期間の定めのない雇用契約について、民法第627条は次のように定めています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
——民法 第627条(e-Gov 法令検索)
辞めることそのものに、会社の同意は要りません。申し入れが会社に届いて2週間経てば契約は終わる、というのが条文の書き方です。
つまり争点がない人にとって、退職代行がしているのは「自分では言い出せない一言を、代わりに届けること」です。ここに法律上の争いは起きません。
自分の状況で選び分ける
| あなたの状況 | 必要な範囲 | 頼む相手 | 関係する条文 |
|---|---|---|---|
| 引き止められるのが怖いだけ。争うことはない | 伝えるところまで | 民間企業でも足りる | 民法627条 |
| 有給を消化したい・退職日を動かしたい | 話し合いまで | 労働組合 | 労組法6条・労基法39条 |
| 未払いの残業代を請求したい | 話し合い〜請求 | 労働組合または弁護士 | 労基法23条・24条 |
| 損害賠償・訴訟をほのめかされた | 法的手続きまで | 弁護士 | 弁護士法72条 |
迷ったときの考え方はひとつです。必要のない範囲に料金を払わない。足りない範囲を選んで後から困らない。
有給の話がある人が伝えるだけのサービスを選ぶと、会社から「有給は認めない」と言われた時点で手詰まりになります。逆に、争うことが何もない人が法的手続きまで含む依頼先を選んでも、使わない範囲にお金を払うことになります。
実際にどのサービスがどれにあたるか
範囲の違いが分かっても、実在のサービスと結びつかないと選べません。主体ごとに1つずつ挙げます。
退職代行はサービス間で「やること」の差が小さい分野です。だからこそ、比べるべきなのは知名度ではなく運営主体になります。
同じ主体の中では、料金と支払い方法、連絡が取れる時間で選ぶことになります。ここは公式サイトを見ないと分かりません。
申し込む前に確認する5項目
依頼先を絞ったら、公式サイトで次を確認してください。どれも料金表だけでは分からないことがあります。
1. 料金に何が含まれるか
労働組合が運営する場合、組合費や加入金が料金と別になっていることがあります。総額でいくらになるのかを確認してください。
2. 支払いのタイミング
依頼の前に支払うのか、後払いができるのかで、手元にお金がない場合の選択肢が変わります。
3. 対応できない範囲
交渉ができないサービスは、その旨が書かれているのが普通です。書かれていないサービスほど注意して読んでください。
4. 連絡が取れる時間
出社の前に連絡したい場合、受付時間が合うかどうかを見ます。深夜・早朝に動きたい人はここが実務上いちばん効きます。
5. 会社から自分に連絡が来たときの扱い
依頼先から会社へ「本人に直接連絡しないように」と伝えるのが一般的ですが、会社がそれに従う法的な義務はありません。連絡が来た場合にどうするかを、先に聞いておいてください。
金額の比較は最後で構いません。範囲が足りていないサービスは、安くても選択肢に入らないためです。
自分で伝える方法もある
依頼先を選ぶ前に、自分で伝える選択肢も見ておいてください。費用がかかりません。
退職届を配達の記録が残る方法で送れば、届いた日付が残るため、2週間の起算点をはっきりさせられます。出社せずに手続きを始めることもできます。
代行を使う判断になるのは、連絡が来ること自体が負担になっている場合です。会社からの電話を取らずに進めたい、家に来られたくない、といった状況では、間に入る相手がいることに意味があります。
この記事が当てはまらない人
ここまでは、期間の定めのない雇用契約で働く民間企業の従業員を前提にしています。次に当てはまる方は、枠組みそのものが変わります。
公務員の方
国家公務員法第61条は「職員の休職、復職、退職及び免職は任命権者が、この法律及び人事院規則に従い、これを行う」と定めています。民法第627条の「申し入れから2週間で終わる」枠組みがそのまま当てはまりません。
実際の手続きは人事院規則や各自治体の条例で決まります。民間向けの説明を当てはめないでください。
契約期間が決まっている方
契約社員やパートで契約期間が決まっている場合、民法第627条ではなく第628条の話になります。「やむを得ない事由」が要件になる点が違います。
自分の契約がどちらなのかは、労働条件通知書の「契約期間」の欄で確認できます。
派遣社員の方
派遣で働いている場合、雇用契約を結んでいるのは派遣先ではなく派遣元です。伝える相手が変わるので、就業先に伝えても手続きは進みません。
判断がつかない部分は、専門の窓口で確かめる
自分の状況が「話し合いが必要」なのかどうかは、判断が難しいことがあります。会社の言い分と自分の認識が食い違っている場合は特にそうです。
その判断は弁護士の領分です。また、賃金が支払われない、労働時間の記録がないといった労働基準法に関わる問題は、総合労働相談コーナーでも無料で相談を受け付けています。
夜間や休日しか時間が取れない場合は、厚生労働省の労働条件相談ほっとラインが使えます。
無料で相談できる窓口があるうちは、そちらを先に使って構いません。範囲がはっきりしてから依頼先を選ぶほうが、結果的に安く済みます。
よくある質問
労働組合が運営していると聞きましたが、その組合に加入することになるのですか。
労働組合が団体交渉として会社と話すためには、依頼した人がその組合の組合員である必要があります。そのため加入手続きを求められるのが一般的です。加入金や組合費が料金に含まれているのか別なのかは会社ごとに違うので、申し込み前に料金の内訳を確認してください。
会社が退職代行からの連絡を無視したらどうなりますか。
退職の意思表示は相手に到達すれば効力が生じるとされているため、会社が返事をしないこと自体で退職が止まるわけではありません。ただし離職票や源泉徴収票が届かない、貸与品の返却手順が決まらないといった実務が滞ることはあります。書面が届かない状態が続く場合は、お住まいの地域を管轄する労働基準監督署に相談できます。
退職代行を使ったことは、次の勤務先に伝わりますか。
前の勤務先が退職の経緯を次の勤務先へ伝える義務はなく、通常は伝わりません。労働基準法第22条第4項は、あらかじめ第三者と謀って就業を妨げることを目的とした通信を禁じています。ただし離職票の離職理由の欄は失業給付の手続きで使うため、記載内容は自分で確認しておいてください。
弁護士に頼めば必ず有給を消化できますか。
交渉ができる立場かどうかと、交渉が通るかどうかは別の話です。年次有給休暇は労働基準法第39条にもとづく権利ですが、実際の消化日数は残日数と退職日の関係で決まります。残日数は給与明細や勤怠システムで先に確認しておいてください。
依頼したあと、会社から自分に直接連絡が来ることはありますか。
依頼先から会社へ「本人に直接連絡しないように」と伝えるのが一般的ですが、会社がそれに従う法的な義務があるわけではありません。連絡が来た場合にどう対応するかは依頼先によって扱いが違うため、申し込み前に確認しておく項目のひとつです。
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