目次
有給を残したまま辞めると、その分は消えます。まとめて使ってから辞めたい、という考えは自然なものです。
先に手順を書きます。残日数を調べる、退職日を逆算する、日程を出す。この順番です。
多くの人が逆から始めて止まります。「有給を使わせてくれるだろうか」と考えるところから入ると、日数が分からないまま話が進みません。
逆算の順番
手順1|残日数を調べる
どこで分かるか
- 給与明細の有給残日数の欄(毎月出ている会社が多い)
- 勤怠システムの休暇申請画面
- 人事や総務への問い合わせ
退職の話をせずに残日数だけ聞くことはできます。「確認したいので教えてください」で足ります。
付与の仕組み
年次有給休暇について、労働基準法第39条は次のように定めています。
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
——労働基準法 第39条(e-Gov 法令検索)
6か月の継続勤務と8割以上の出勤で10労働日。これが最初の付与です。
以降は継続勤務年数に応じて加算されます。入社半年に満たない場合は、まだ付与されていない可能性があります。
パート・アルバイトの場合
所定労働日数が少ない場合は、日数が比例して決まる仕組みになっています。ゼロではありません。
給与明細か勤怠システムで確認してください。
手順2|退職日を逆算する
期間の定めのない雇用契約では、申し入れから2週間で契約が終わります(民法 第627条)。
有給を全部使いたいなら、退職日は「申し入れの日+残日数」より後に置く必要があります。
計算の例
残日数が15日あるとします。土日祝を除いて15営業日なので、3週間ほどかかります。
この場合、退職日を2週間後にすると使い切れません。3週間より後の日を退職日にする必要があります。
よくある失敗
「早く辞めたい」と考えて最短の2週間後を退職日にすると、残日数が2週間分を超えていた場合に消えます。
急ぐ気持ちがあっても、残日数を見てから日付を決めてください。
手順3|最終出社日を決める
退職日が決まれば、最終出社日は自動的に出ます。退職日から残日数を引いた日です。
引き継ぎの日程もここで決まる
最終出社日までに引き継ぎを終える形になります。逆に言えば、引き継ぎに使える日数が確定します。
「引き継ぎが終わるまで」と期限を切らずに進めると、有給の日程が押し出されます。日付を先に置いてください。
会社が有給を認めない場合
時季変更権とは
労働基準法第39条は、有給を労働者の請求する時季に与えることを原則としつつ、事業の正常な運営を妨げる場合には他の時季に変えることができる、という定めを置いています。
これが時季変更権と呼ばれるものです。
退職前には働きにくいとされる理由
時季を変えるには、変更する先の時季が存在する必要があります。
退職日が決まっていれば、その先に勤務する日がありません。振り替える先がないため、退職前の消化に対して時季変更権を行使することは難しいとされています。
それでも断られたら
条文の理屈と、実際に認めてもらえるかは別です。断られた場合は話し合いになります。
ここから先は交渉です。伝えるだけのサービスでは対応範囲外になります。
拒否されたときに取れる手
記録を残す
いつ、誰に、どう断られたか。この3点を残してください。メールで確認する形にすると記録になります。
無料の窓口に相談する
総合労働相談コーナーで無料の相談ができます。夜間や休日しか動けない場合は労働条件相談ほっとラインが使えます。
交渉できる依頼先を選ぶ
| 依頼先 | 退職の意思を会社に伝える | 有給・退職日・未払い賃金の話し合い | 損害賠償の請求や訴訟への対応 |
|---|---|---|---|
| 弁護士 | 対応できる | 対応できる | 対応できる |
| 労働組合 | 対応できる | 団体交渉として対応できる | 対応範囲外 |
| 民間企業 | 対応できる | 対応範囲外 | 対応範囲外 |
労働組合の代表者や委任を受けた者は、労働組合法第6条により使用者と交渉する権限を有するとされています。いっぽう弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を業として取り扱うことは弁護士法第72条で禁じられており、民間企業が会社と交渉した場合はこの規定に触れる可能性が指摘されています。自分の事情がどれにあたるかの判断は弁護士の領分です。条文:労働組合法/弁護士法(e-Gov法令検索・2026年8月確認)
労働組合が運営する退職代行は、労働組合法6条の交渉権限にもとづいて団体交渉として話せるとされています。民間企業は伝えるところまでです。
有給の消化を断られる可能性があるなら、最初から交渉できる先を選ぶほうが手戻りがありません。
断られる理由と、それぞれへの返し方
実際に言われる断り文句は、だいたい3つに絞られます。
「引き継ぎが終わっていない」
引き継ぎの完了を有給取得の条件にしてよい、という定めはありません。ただし現実には日程の調整が必要です。
担当案件と進捗、連絡先を書面にまとめたうえで「この日までに終えます」と日付を出すと、話が具体的になります。資料を先に作っておくと、この理由は使われにくくなります。
「繁忙期だから無理」
時季変更権の話に見えますが、退職日の先に振り替える時季がありません。繁忙期であること自体は、消化させない理由になりにくいとされています。
言われた内容を記録したうえで、日程を提示し直してください。
「うちにはそういう前例がない」
前例の有無は法律の話ではありません。制度としてある権利なので、前例で決まるものではありません。
このタイプの断られ方をした場合、話し合いが長引きやすくなります。交渉できる立場の依頼先を検討する場面です。
買い取りをあてにしない
会社に有給を買い取る義務はありません。制度として行っている会社もありますが、応じるかどうかは会社の判断です。
買い取りを前提に退職日を決めると、断られたときに日程が組み直せません。消化できる日程を確保するほうが確実です。
| 進め方 | 確実性 | 注意点 |
|---|---|---|
| 日程を確保して消化する | 高い | 退職日を後ろにずらす必要がある |
| 買い取りを求める | 会社次第 | 義務ではないため断られうる |
| 何もしない | 消える | 残日数分がそのまま失われる |
依頼先を選ぶなら
残日数を確認した結果、有給が残っていなかった場合は、この論点自体が発生しません。その場合は伝えるところまでで足ります。
残っていて、かつ会社が渋りそうなら、話し合いができる立場が必要になります。
今日やるのは残日数の確認だけ
日数が分かれば、退職日も最終出社日も決まります。
そこまで決まれば、伝える方法を選ぶ段階に進めます。手順は辞めたいのに言えないときにまとめています。
よくある質問
有給を使わせてもらえない場合、買い取ってもらえますか。
会社に買い取る義務はありません。制度として買い取りを行っている会社もありますが、応じるかどうかは会社の判断になります。買い取りを前提に退職日を決めると、断られたときに困ります。消化できる日程を確保するほうが確実です。
退職日を伝える前に、有給の申請だけ先に出せますか。
出せますが、まとまった日数の申請は退職の意向を伝えたのと同じ意味に受け取られることがあります。順序を選ぶなら、退職日を決めてから逆算した日程で申請するほうが話が早く進みます。
引き継ぎがあるから有給は使えないと言われました。
引き継ぎを義務づける条文はありません。ただし現実には日程の調整が必要になります。担当案件と進捗、連絡先を書面で残したうえで日程を提示すると、話が具体的になります。それでも認められない場合は交渉の場面です。
パートやアルバイトにも有給はありますか。
あります。所定労働日数が少ない場合は日数が比例して決まる仕組みになっています。付与の要件は雇入れから6か月継続勤務し全労働日の8割以上出勤したことです。給与明細か勤怠システムで残日数を確認してください。
有給の残日数が分かりません。
給与明細に記載されている会社が多くあります。無い場合は勤怠システムの休暇申請画面で確認できます。どちらでも分からなければ人事や総務に問い合わせられます。退職の話をせずに残日数だけ聞くことは可能です。
関連する記事
-
退職代行の弁護士・労働組合・民間の違い|頼める範囲で選び分ける
退職代行は運営しているのが弁護士か労働組合か民間企業かで、会社に対してできることの範囲が変わります。有給や未払い賃金の話し合いが必要かどうかを軸に、自分の状況ではどれを選ぶことになるのかを条文にあたって整理しました。申し込む前に確認する項目もまとめています。
-
退職代行はどこまでやってくれるのか|頼めることと自分に残る作業
依頼したら全部やってもらえると思っていると、当日に想定外が出ます。伝える・調整する・請求するのどこまでが範囲に入るのか、自分の手元に残る作業は何かを整理しました。
-
退職代行は違法だという説明を見かけますが、問題になるのは「交渉まで行った場合」です。弁護士法72条が何を禁じているのか、利用した側はどうなるのか、グレーと言われる理由まで、条文にあたって整理しました。